シュー・フィッテング(どうして足病医やシューフィッターは正しいシューフィッティングができないのか。)
A.余裕寸法(ト―ボックス/Toe box)の必要量
足病医とシューフィッターは靴の爪先に1cm程度の余裕寸法(ト―ボックス/Toe box)を空けるよう指導します。
しかしながら、彼らがこのように指導した時点で足病医やシューフィッターとしては失格です。
靴の基本構造に関する無知を露呈しているからです。
靴の前に空けるべき空間の長さはイギリスの靴職人たちの不文律『成人(女性)の最も小さな足であっても爪先に(職人の)親指幅分だけの空間を空けなければならない。』(Rule of thumb width)をもとに親方から弟子に受け継がれてきました。
足長22.0cmのあしで1インチ(2.54cm)の爪先余裕を意味します。
本体1に対して爪先余裕が0.115の比の関係になるのです。
1 : 0115
サイズが22cmより大きな靴はこの比の分だけ長い爪先余裕を設けなればなりませんし、22cmより小さな靴ではこの比の分だけ短い爪先余裕となります。
爪先余裕は最低限、上記のルール分だけ確保する必要があります。決して、1cm程度等の僅かな余裕寸法では有りえません。
デザイン的な要請からそれよりも長い爪先余裕を持つ靴もありますが、その分は表示サイズには含まれません。
靴を作るときに用いられるラスト(木型)は靴の立体的な形状(フォルム)を決定付ける大切な道具です。それゆえラストの形状の真の意味を知ることは正しいシューフィッテングに必要不可欠なのですが、残念ながらほとんどの足病医やシューフィッターはラストの形状を正しく理解していません。
ラストを単なる足型だと思い込んでいる足病医とシューフィッターが大多数である事が現在の状況なのです。
ラストは人の足を立体的に再現しただけのものではありません。
ラストには爪先側にトーボックス(爪先余裕)が加えられています。
1. トーボックスは足指を靴の甲革による圧迫から解放し、足の障害の発生を防いでいます。
2. トーボックスは指先に一定の空間を確保することで、外気の温度変化から足趾を隔離し、足趾表面の温度を一定に保つ働きもしています。
3. 加えて歩行時にトーボックスが屈曲により変形と復元を繰り返すことにより、内部の容積が変化することを利用して爪先部との履き口部間の空気の移動を促します。(ふいご効果) また、屈曲時には拇趾球から先の足趾は靴内部で歪のため前方にスライドします。そのとき、爪先部を靴内部の先端に当たらないようにするためにも有効な空間となっています。
反対に土踏まず部から甲にかけての外周は、実測値より横幅をやや細く成型しています。
足袋を作るときに職人達が土踏まず部から甲にかけてを細く成型するのと同様に、足の縦横のアーチをより高く支えるサポーターの役目を靴にさせるための工夫です。靴では『choke』と呼ばれ、足袋では『殺し』と呼ばれています。
いずれも首を絞める、という言葉から中足部を絞めて束ねることを意味しています。
ラストのヒール部は、人が土の上に立った時と同様に距骨と踵骨が垂直に並ぶように、そして履く人の踵に密着するように成型されます。
踵部の外反を防ぐとともに蹴り上げ時の追随性を向上させるために重要な部分です。
トーボックスが無ければ趾部に様々な障害を引き起します。
B. 足計測の基準 ISO9407(国際靴サイズ規格)とJISS5037(国内靴サイズ規格)
注文靴は特定の個人の為に作られるものですから、わざわざサイズを表示をする必要はありません。
対して、不特定多数の消費者を対象に製造、販売される既製靴には万人が共通して共有・認識可能なサイズ表示が必要となります。
その為、世界各国の既製靴には自国の制定した基準に従った靴サイズが表示されています。
国内メーカーの既成靴には日本工業規格(JIS)の靴サイズ規格(JISS5037)に基づいたサイズが表記されています。 JISのサイズ規格は国際標準化機構(ISO)の靴サイズ規格(ISO9407)を順守ずることで世界中に通用するサイズともなっています。
輸入既成靴は輸出国のサイズ基準に従ってサイズが表示されています。
日本サイズが表示されていない輸入品の販売に際しては国内サイズへの換算が必要となります。
最近国内に流通している内外の革靴、カジュアルシューズ、作業靴、スポーツシューズに日本サイズ(cm)を含めた世界の主要国で用いられている固有のサイズを併記しているものも増えました。
それ故、誰もが何の疑いもなく表示されたサイズを目安に自分の足に合った大きさの靴を選びます。
残念ながら、ISOやJISが定めた『サイズ』をもとに人々が選んだ靴を試着しても完璧なフィット感を得られることはほとんどありません。
それでも大多数の人々は『サイズ』を信じ、そのまま最初に選んだサイズの靴をで履き続けようとします。
満足できず他のサイズに変更を試みる人たちがいても、変更の範囲は前後サイズへのわずかな移動修正に留めます。 自身の足幅が標準よりも細い、または広いとの推測の元に、同一サイズで足幅の異なるものを選んで履く人たちもいます。
多くの人が自分に最適なサイズの靴を見つけられず、いまだに悩み続けているのが現状です。
足病医やシューフィッターもISO9407やJISS5037などが提供する『サイズ』を基に顧客や患者に靴を処方します。
足病医やシューフィッターに処方された靴を履いている顧客や患者たちも一般の人たち同様に、その多くが足部の疾患の改善や満足な履き心地を得られずにいるのが現状です。
何故、こんな結果になってしまうのでしょうか?
JISやISOの規定する靴『サイズ』に対する足病医やシューフィッターの知識不足と、これを原因とする誤ったサイズ選びにあります。
C. サイズ盲信の弊害
JISやISOが『サイズ』として既製靴に表示するよう義務付けているのは足長です。
足長とは『水平な床面に直立し、両足を平行に開いて平均に体重をかけた姿勢のときの、かかとの後端[しょう(踵)点]から最も長い足指の先端までの距離』とISO9407やJISS5037では定義されています。
足長を靴の『サイズ』として規定することには何の問題もないように思われます。
多くの人々にとってそれは常識であり、それ以外に『サイズ』は有りえないと信じています。
そのため、世界中の殆どの人々は自分の足の大きさを測り、その大きさが表示された靴を履くことで完全な履き心地が手に入れられると信じています。
足病医やシューフィッターの殆ども同じように理解しているものと考えられます。
残念ながら、彼らのシューフィッティングではほんのわずかな例外を除いて満足な成果は期待できません。
JISやISOは正確なフィッティングに最も重要な数値を『サイズ』として規定している訳ではありません。
足長は正確なシューフィッティングの決め手となる絶対的な数値ではありません。
実際のシューフィッティングでは足長よりも踵後端から拇趾球中心までの長さ(アーチ・レングス)の方がはるかに重要です。
足長表示だけを頼りの靴選びでは、足の屈曲部(中足趾関節)と靴の屈曲部(ボール・フレック・スライン)が必ずしも合致するとは限りません。
人の足趾はその長さと太さに個人的な差異があり、それがその人の足の個性となっています。
その人が先祖から受け着いた形質の違いから、足趾が長くて細いタイプ、足趾が短くて太いタイプ。両者の中間のタイプの人々に大別されます。
従って、足長が同じであっても、足趾の長さとアーチレングスの長さは異なります。
シューフィッティングでは足のアーチレングスと靴のアーチレングスを正確の合わせることが求められます。
靴は踵から爪先までの3分の2くらいのところに屈曲し易い場所(ボールフレックスポイント)が設けられていて、足の屈曲部(中足趾関節)と一致しなければ履き心地を大きく損ないます。
ヒールカウンターに踵が密着した状態で拇趾球がボールフレックスポイントにあれば、靴は何の違和感もなく柔軟に屈曲します。
また、ヒールカウンター後端からボールフレックポイント手前までの間は踵部から土踏まずまでを立体的に下支えするよう、やや絞り込まれる形状に成形されています。
加えて、ボールフレックスポイントを起点として上方に反りかえるように成型された爪先部が滑らかな重心移動を可能にします。
最先端のトーボックス部は足指が入らないことを前提に設けられている部分であるため、スキーのソリが雪に刺さらないようにカーブを描いて、もい一段上方に反っています。
靴はラスト (靴の木型)の形状に忠実に成型されます。
そのため、ラストを理解することで靴を理解する事が出来ます。
そして、そのことによってはじめて正確なフィッティングをする事が出来るのです。
ヨーロッパの靴職人の間には『ラストが最初(last is first)』という格言あります。『より良いラストからより良い靴が作られる。』との意味合いで用いられているようです。
図10-1の写真は革靴の25.0㎝を作るときに使われるラストですが、ラストの長さは実寸で28.0cmあります。
(図10-1)