靴と足の話

シュー・フィッテング(どうして足病医やシューフィッターは正しいシューフィッティングができないのか。)


A.余裕寸法(ト―ボックス/Toe box)の必要量



 足病医とシューフィッターは靴の爪先に1cm程度の余裕寸法(ト―ボックス/Toe box)を空けるよう指導します。

 しかしながら、彼らがこのように指導した時点で足病医やシューフィッターとしては失格です。
 靴の基本構造に関する無知を露呈しているからです。

 靴の前に空けるべき空間の長さはイギリスの靴職人たちの不文律『成人(女性)の最も小さな足であっても爪先に(職人の)親指幅分だけの空間を空けなければならない。』(Rule of thumb width)をもとに親方から弟子に受け継がれてきました。

 足長22.0cmのあしで1インチ(2.54cm)の爪先余裕を意味します。

 本体1に対して爪先余裕が0.115の比の関係になるのです。

                    1 : 0115

 サイズが22cmより大きな靴はこの比の分だけ長い爪先余裕を設けなればなりませんし、22cmより小さな靴ではこの比の分だけ短い爪先余裕となります。

 爪先余裕は最低限、上記のルール分だけ確保する必要があります。決して、1cm程度等の僅かな余裕寸法では有りえません。

 デザイン的な要請からそれよりも長い爪先余裕を持つ靴もありますが、その分は表示サイズには含まれません。

 靴を作るときに用いられるラスト(木型)は靴の立体的な形状(フォルム)を決定付ける大切な道具です。それゆえラストの形状の真の意味を知ることは正しいシューフィッテングに必要不可欠なのですが、残念ながらほとんどの足病医やシューフィッターはラストの形状を正しく理解していません。

 ラストを単なる足型だと思い込んでいる足病医とシューフィッターが大多数である事が現在の状況なのです。
 ラストは人の足を立体的に再現しただけのものではありません。
 ラストには爪先側にトーボックス(爪先余裕)が加えられています。

1. トーボックスは足指を靴の甲革による圧迫から解放し、足の障害の発生を防いでいます。
2. トーボックスは指先に一定の空間を確保することで、外気の温度変化から足趾を隔離し、足趾表面の温度を一定に保つ働きもしています。
3. 加えて歩行時にトーボックスが屈曲により変形と復元を繰り返すことにより、内部の容積が変化することを利用して爪先部との履き口部間の空気の移動を促します。(ふいご効果) また、屈曲時には拇趾球から先の足趾は靴内部で歪のため前方にスライドします。そのとき、爪先部を靴内部の先端に当たらないようにするためにも有効な空間となっています。 

 反対に土踏まず部から甲にかけての外周は、実測値より横幅をやや細く成型しています。

 足袋を作るときに職人達が土踏まず部から甲にかけてを細く成型するのと同様に、足の縦横のアーチをより高く支えるサポーターの役目を靴にさせるための工夫です。靴では『choke』と呼ばれ、足袋では『殺し』と呼ばれています。
 いずれも首を絞める、という言葉から中足部を絞めて束ねることを意味しています。

 ラストのヒール部は、人が土の上に立った時と同様に距骨と踵骨が垂直に並ぶように、そして履く人の踵に密着するように成型されます。

 踵部の外反を防ぐとともに蹴り上げ時の追随性を向上させるために重要な部分です。

 トーボックスが無ければ趾部に様々な障害を引き起します。


B. 足計測の基準 ISO9407(国際靴サイズ規格)とJISS5037(国内靴サイズ規格)


 注文靴は特定の個人の為に作られるものですから、わざわざサイズを表示をする必要はありません。
 対して、不特定多数の消費者を対象に製造、販売される既製靴には万人が共通して共有・認識可能なサイズ表示が必要となります。
 その為、世界各国の既製靴には自国の制定した基準に従った靴サイズが表示されています。

 国内メーカーの既成靴には日本工業規格
(JIS)の靴サイズ規格(JISS5037)に基づいたサイズが表記されています。 JISのサイズ規格は国際標準化機構(ISO)の靴サイズ規格(ISO9407)を順守ずることで世界中に通用するサイズともなっています。
 輸入既成靴は輸出国のサイズ基準に従ってサイズが表示されています。
 日本サイズが表示されていない輸入品の販売に際しては国内サイズへの換算が必要となります。

 最近国内に流通している内外の革靴、カジュアルシューズ、作業靴、スポーツシューズに日本サイズ(cm)を含めた世界の主要国で用いられている固有のサイズを併記しているものも増えました。
 それ故、誰もが何の疑いもなく表示されたサイズを目安に自分の足に合った大きさの靴を選びます。

 残念ながら、ISOやJISが定めた『サイズ』をもとに人々が選んだ靴を試着しても完璧なフィット感を得られることはほとんどありません。
 それでも大多数の人々は『サイズ』を信じ、そのまま最初に選んだサイズの靴をで履き続けようとします。
 満足できず他のサイズに変更を試みる人たちがいても、変更の範囲は前後サイズへのわずかな移動修正に留めます。 自身の足幅が標準よりも細い、または広いとの推測の元に、同一サイズで足幅の異なるものを選んで履く人たちもいます。

 多くの人が自分に最適なサイズの靴を見つけられず、いまだに悩み続けているのが現状です。

 足病医やシューフィッターもISO9407やJISS5037などが提供する『サイズ』を基に顧客や患者に靴を処方します。

 足病医やシューフィッターに処方された靴を履いている顧客や患者たちも一般の人たち同様に、その多くが足部の疾患の改善や満足な履き心地を得られずにいるのが現状です。

 何故、こんな結果になってしまうのでしょうか?

 JISやISOの規定する靴『サイズ』に対する足病医やシューフィッターの知識不足と、これを原因とする誤ったサイズ選びにあります。


C. サイズ盲信の弊害


 JISやISOが『サイズ』として既製靴に表示するよう義務付けているのは足長です。
 足長とは『水平な床面に直立し、両足を平行に開いて平均に体重をかけた姿勢のときの、かかとの後端[しょう(踵)点]から最も長い足指の先端までの距離』とISO9407やJISS5037では定義されています。
 足長を靴の『サイズ』として規定することには何の問題もないように思われます。
 多くの人々にとってそれは常識であり、それ以外に『サイズ』は有りえないと信じています。
 そのため、世界中の殆どの人々は自分の足の大きさを測り、その大きさが表示された靴を履くことで完全な履き心地が手に入れられると信じています。
 足病医やシューフィッターの殆ども同じように理解しているものと考えられます。
 残念ながら、彼らのシューフィッティングではほんのわずかな例外を除いて満足な成果は期待できません。
 JISやISOは正確なフィッティングに最も重要な数値を『サイズ』として規定している訳ではありません。
 足長は正確なシューフィッティングの決め手となる絶対的な数値ではありません。
 実際のシューフィッティングでは足長よりも踵後端から拇趾球中心までの長さ(アーチ・レングス)の方がはるかに重要です。
 足長表示だけを頼りの靴選びでは、足の屈曲部(中足趾関節)と靴の屈曲部(ボール・フレック・スライン)が必ずしも合致するとは限りません。
 人の足趾はその長さと太さに個人的な差異があり、それがその人の足の個性となっています。
 その人が先祖から受け着いた形質の違いから、足趾が長くて細いタイプ、足趾が短くて太いタイプ。両者の中間のタイプの人々に大別されます。
 従って、足長が同じであっても、足趾の長さとアーチレングスの長さは異なります。
 シューフィッティングでは足のアーチレングスと靴のアーチレングスを正確の合わせることが求められます。
 靴は踵から爪先までの3分の2くらいのところに屈曲し易い場所(ボールフレックスポイント)が設けられていて、足の屈曲部(中足趾関節)と一致しなければ履き心地を大きく損ないます。
 ヒールカウンターに踵が密着した状態で拇趾球がボールフレックスポイントにあれば、靴は何の違和感もなく柔軟に屈曲します。
 また、ヒールカウンター後端からボールフレックポイント手前までの間は踵部から土踏まずまでを立体的に下支えするよう、やや絞り込まれる形状に成形されています。
 加えて、ボールフレックスポイントを起点として上方に反りかえるように成型された爪先部が滑らかな重心移動を可能にします。
 最先端のトーボックス部は足指が入らないことを前提に設けられている部分であるため、スキーのソリが雪に刺さらないようにカーブを描いて、もい一段上方に反っています。
 靴はラスト (靴の木型)の形状に忠実に成型されます。
 そのため、ラストを理解することで靴を理解する事が出来ます。
 そして、そのことによってはじめて正確なフィッティングをする事が出来るのです。
 ヨーロッパの靴職人の間には『ラストが最初(last is first)』という格言あります。『より良いラストからより良い靴が作られる。』との意味合いで用いられているようです。
 図10-1の写真は革靴の25.0㎝を作るときに使われるラストですが、ラストの長さは実寸で28.0cmあります。


(図10-1)



 図10-2は先のラストを内足側から写した写真です。

(図10-2)



 25.0cmの内訳は靴の屈曲部から後端までの長さ(Arch Length)とヨーロッパの人々の標準的な足趾の長さ(a.)の合計です。

 Arch Lengtha=イギリス人の標準的な足長=革靴の表示サイズ

 革靴、靴ルートで販売されるスポーツスタイルのカジュアルシューズ、一般的なカジュアルシューズ類のサイズはこの長さを意味しています。
 靴(内部)の全長を表示しているわけではありません。
 これにヨーロッパの人々の標準的な足形で足長25.0cmの靴を作るときに必要なトーボックス(爪先部の余白)の長さ(3.0㎝)を加えてラストの長さとなります。




(図10-3)



 図10-3に見られるように、ラスト底面も僅かな角度をつける為、トーボックス部分をやすりで削ります。

 日本人の大多数はいつの頃からか『靴の爪先部に1cm~1.5cmのトーボックスを開けて』靴を履くのが正しい事、と信じ込んでいます。

 しかし、実際の靴作りに於いては中世ヨーロッパの靴職人たちの不文律『親指の法則(rule of thumb)』が機能しています。

 それは、成人用の靴作りに於いては最も小さな足(イギリスではサイズ1/22.0cmが最小とされました。)の人の為の靴であっても爪先には親指の横幅分(身体尺で約1インチ/2.54cm)のトーボックスを設けなければならない、と言うものです。

 サイズが大きくなればトーボックスもこれに比例して大きくなるようにラストは作られています。

 残念ながら、足病医やシューフィッターの一般的な認識はサイズにかかわらず一定のトーボックス(1~1.5cm)を爪先部に空ければ良いというものです。

 トーボックスは『定量』空けるのではなく『定率』空けなければならないということを全く理解していない証拠です。

 同一のアーチレングス(Arch Length)をもつ欧米人と日本人の足を比較した場あり、民族的な違いは足趾に現れます。

 欧米人に比べて『足趾が短くて太いのが日本人の足の特徴』です。

Arch Lengthb.=日本人の標準的な足長≠革靴の表示サイズ

 ほとんどの日本人は自身の思っているより大きいサイズが適正サイズなのです。

 しかしながら、ほとんどの日本人は『靴の爪先部には少なくとも1cm~1.5cmのトーボックスを開けなければならない。』と言う迷信を信じていいます。

 実際、ほとんどの人々は爪先部に1.5cm程の空間を開けて靴を履きます。

 ラストを本質的に理解していない多くの足病医やシューフィッターが『爪先に1~1.5cm』空間を開けることで正しい靴選びが出来るかのように喧伝していることが主な原因です。

 彼らは『成人ならばどんなに足の小さな人でも、最低、親指の横幅分(1インチ/2.54cm)トーボックスを開けなけらばならない。』と言う中世ヨーロッパの靴職人たちの不文律を知らないか全く理解していないのかのどちらかでしかありません。

 また、トーボックスは足の大きさに合わせて定率で拡大してゆくことも理解していません。

 シューフィッターや足病医が足長を基準に靴の選定をしたとするならば、その時点でフィッティングの成功率は格段に低下します。


D. フットサイズとラストサイズ


 アメリカ、ヨーロッパの主要メーカーのスポーツシューズはラストの長さをサイズとして表記しています。

 加えて、日本のメーカーでは海外メーカーに比べサイズを小さく表示する傾向が見られます。

 不思議なことに日本を代表するスポーツシューズメーカー・アシックスではラストサイズ29.0cmのスポーツシューズに28.0cmのサイズ表示がなされています。

 あくまでも私見ではありますが、トーボックス分まで含んだラストの全長を足長と捉え、トーボックス分としてさらに1cmを加えた29.0cmの長さのラストを28.0cmと表示しているのではないかと推測しています。

 旧来からの革靴、カジュアルシューズメーカーではヨーロッパの人々の標準的な足長(アーチレングス+足趾の長さ)を表示サイズとしています。

 そのため、同一人物が履くスポーツシューズと革靴、カジュアルシューズではトーボックス分だけ表示サイズが異なります。

 しかしながら、殆どの足病医やシューフィッターは革靴とスポーツシューズでは表示サイズそのものの意味が全く異なることを理解していません。

 例えは足長26.5cmの足に表示サイズズ26.5cmの革靴でもスポーツシューズでもベストフィッテイングが可能だと考えること自体が間違っているのです。


 アーチレングスが同一の足であっても足趾が標準の長さの人、標準の長さより短い人、標準の長さより長い人では足長は異なります。

 足趾が標準の長さの人が革靴、カジュアルシューズを履く分には何らの問題もおきません。

 アーチレングスが同一の足であっても足趾が標準の長さより短い人は、表示サイズに従ってより小さな靴を選択すると拇趾球が靴の屈曲点より前方に位置することとなります。

 また、足長が標準の長さより長い人は表示サイズに従ってより大きな靴を選択すると、拇趾球が靴の屈曲点より後方に位置することとなります。

 それでは標準的な足指の長さの足以外はフィットしていないことになります。

 立体成型のソックライナーが組み込まれた靴では土踏まずにあたる部分が滑らかな曲線を描いて突起しています。
 シューズは土踏まず部があたる部分では足の実際の外周よりも意図的に細められています。

 これらの工夫により、柔らかな草地に立った時に大地全体で足底を支えているのと同じ環境を人工的に作ることが出来ます。

 そのため、適正な靴選びの為のデータとしてはアーチレングス(踵から拇趾球までの長さ)こそが重要なのです。

 にもかかわらず世界中のいかなる基準でもアーチレングスは表示されていません。


 E. 足幅と足囲


 正確なシューフィッティングにおいては、次に、足幅と靴の幅が合っていることを確認することが求められます。

 ところがJIS規格では足囲表示に重きが置かれ、足幅を軽視しています。

 その理由としては、パンプスやローファなどの例外的な靴を多く取り扱っている紳士婦人靴店などの要求に応える必要があることがあげられます。

 次項で詳しく説明いたしますが、パンプスやローファは歩くこと以外を主な目的として作られた特殊な履物です。

 パンプスやローファは、本来靴に求められる機能(足を支え、滑らかな歩行を助け、足を守る)の一部、または全部を別の目的のために放棄することでしか成り立たない履物なのです。
 ヒールカウンターとインステップで足を確実に支えることが良い靴の条件ですが、脚を長く見せる効果のため履き口を広く開けるデザインのパンプスや執務で長時間椅子に座り続ける貴族のために甲の圧迫を少なくすることを目的にしたローファではインステップを確実に支えることは不可能です。
 その為、ボール部から爪先までのどこかでインステップ部の代わりに足を支えなければ靴は脱げてしまいます。

 本来、足を靴に留め置くために圧迫を加えるべき場所ではない前足部の足囲(Girth)が足幅(Width)よりも重要だと考える人たちが人数で勝っている為、日本ではこのような結果となってしまいます。

 大多数の足病医やシューフィッターはスポーツシューズと革靴の規格の違いを理解していません。
 残念ながら、正しいフィッティングの方法も理解していないのが現状です。

 正しいフィッティングにはアーチレングス(arch length/踵後端から拇趾球までの長さ)とワイズ(width/足幅)が必要不可欠です。
 アーチレングスは足病医やシューフィッターには軽視し続けれてきました。
 アーチレングスはいかなる靴にも表示されていないことから、さして重要なテータだとは思われていなかったからです。
 しかしながらアーチレングスは量産の既成靴が一般化する以前からオーダーメイドの靴職人たちにとって最も重要な長さでした。
 ヒールカップの形状、アンクルガース、インステップガース、ボールガース、ボールフレックスポイント、ワイズなど履き心地に大きく影響するデータはこの部分に集中しています。
 履き心地に直結するこの周りのデータは顧客にさえ公表しませんでした。
 ラストも作り手が保管して、顧客に渡すことはありませんでした。
 顧客には足長(サイズ)だけを伝え、履き方、取り扱い方法を説明します。  
 その伝統から、総てのメーカーが靴に表示しているのは靴のサイズ(size)です。一部の靴ではワイズ(width/足幅)またはガース(girth/足囲)も併記されています。
 足病医やシューフィッターは靴のサイズ(size)とワイズ(width/足幅)またはガース(girth/足囲)を基準にシューフィッティングをしようとします。
 しかし、サイズが足長(full length/フルレングス)を意味しているとは限りません。
 また、足長だけでは正しいシューフィッティングは困難です。
 そのため、実際のシューフィッティングでは靴に表示されたサイズは参考程度のデータでしがありません。

 なぜそう言い切れるのか、その理由を次項で詳しく解説してゆきます。


F. 実際の靴を使っての検証


 靴に表示されているサイズが履く人の足長を意味するとは限りません。
 たいていの場合、革靴(sizeUS9/27.0cm)とスポーツシューズ(sizeUS9/27.0cm)では靴の大きさが全く異なります。
 ほとんどのスポーツシューズが革靴とは全く異なるサイズ規格を採用しているからです。
 下の図10-4をご覧ください。
 左がロックポートの27.0cm(革靴)、右がナイキの27.0cm(スポーツシューズ)です。
 実際にはインソールの長さで約3.0cm強、革靴の方が大きいのです。


 (図10-4)

 サイズ27.0cmの革靴とサイズ27.0cmのスポーツシューズの大きさ比較  ロックポートの27.0㎝の革靴(左)  ナイキの27.0cmのスポーツシューズ(右)  明らかに革靴の方がスポーツシューズよりも大きいのが判ります。


 革靴の表示サイズはその靴に最適な足の大きさ(足の長さ)を意味します。
 スポーツシューズの表示サイズはその靴の内側の全長(ラスト/靴型の長さ)を意味します。
 『なんだ、同じじゃないか。』と思っていませんか?
 多くの方が靴の爪先部いっぱいまで足先を入れた状態を『ジャストサイズ』『ビッタリサイズ』だと信じています。
 しかし、靴は靴下のように先端いっぱいまで爪先を入れられる構造ではありません。
 爪先を保護するために一定の長さの空間(トーボックス)が設けられています。
 靴の先端いっぱいに爪先を入れた状態では構造上、5本の足指が十分に開きながら収まる横方向の空間は絶対に確保できません。
 図10-5-1をご覧ください。図10-4で27.0cmの革靴と比較した27.0cmのスポーツシューズのインソールです。
 足長27.0cmの骨格模型を上に重ねておいてみました。骨格模型のつま先部分はインソールから横方向にはみ出してしまします.。


(図10-5-1)

 27.0cmのNIKEランニングシューズインソール上の全長27.0cmの骨格模型。  インソールの全長と足の骨格の全長が同一の為、足指はインソールより横方向にはみ出しています。  実際のシューズの中では足指の骨格は爪先の狭い部分に押し込められ、結果として様々な足指の障害の原因となります。  外反母趾(バニオン)、内反小趾(バニオネッタ)、外反扁平足、陥入爪、槌状趾(ハンマー・トー)、浮き指、足趾外側面のタコやマメ、爪の根元の爪母細胞組織からの内出血、等々の原因はすぺてここにあります。

 


 そのため、シューフィッターや足病医は『つま先に少なくとも1cmの隙間をあけて履く』事を推奨してきました。
 しかし、この1cmと言う長さは何を根拠にしているのでしょうか。
 図10-5-2はNIKEランニングシューズインソール(28.5cm)上の全長27.0cmの骨格模型です。足病医やシューフィッターが推奨する1cm~1.5cmのつま先部分の余白(トーボックス)を空けた状態です。
 ご覧いただいた通り、足の親指と小指がインソールからはみ出してしまいます。
 『つま先に隙間をあけて履く』こと自体には問題はありませんが、『少なくとも1cm』は不正確ですし、少なすぎます。
 しかしながら、ほとんどの日本人は何の疑問も感じないままこのような状態で靴を履いていると考えてよいでしょう。
 この状態で靴を履いている人々の中には当然のように爪先が狭いと感ずる人たちがでてきます。
 爪先が狭いと感じた人たちは、自身の足幅か他の人たちより広いと思い込みます。決して今履いている靴が小さいとは考えないでしょう。
 その為、彼らはより幅の広い靴を探して履くようになります。
 シューフィッターや足病医を足と靴の専門家だと信じ、アドバイスを求める人たちもいるでしょう。
 そんな時、シューフィッターや足病医は相談者の靴に1cm~1.5cmのトーボックスを確認すると適正なトーボックススペースを確保できていると理解します。決してサイズが小さいとの結論を導けません。
 それ故、より足幅(ワイズ)の広い靴を履くことを進めるに違いありません。
 残念ながら、かつて、これ以上の余白が必要だと主張する足病医やシューフィッターに出会ったことはありません。


 そのため、シューフィッターや足病医は『つま先に少なくとも1cmの隙間をあけて履く』事を推奨してきました。
 しかし、この1cmと言う長さは何を根拠にしているのでしょうか。
 図10-5-2はNIKEランニングシューズインソール(28.5cm)上の全長27.0cmの骨格模型です。足病医やシューフィッターが推奨する1cm~1.5cmのつま先部分の余白(トーボックス)を空けた状態です。
 ご覧いただいた通り、足の親指と小指がインソールからはみ出してしまいます。
 『つま先に隙間をあけて履く』こと自体には問題はありませんが、『少なくとも1cm』は不正確ですし、少なすぎます。


 しかしながら、ほとんどの日本人は何の疑問も感じないままこのような状態で靴を履いていると考えてよいでしょう。
 この状態で靴を履いている人々の中には当然のように爪先が狭いと感ずる人たちがでてきます。
 爪先が狭いと感じた人たちは、自身の足幅か他の人たちより広いと思い込みます。決して今履いている靴が小さいとは考えないでしょう。
 その為、彼らはより幅の広い靴を探して履くようになります。
 シューフィッターや足病医を足と靴の専門家だと信じ、アドバイスを求める人たちもいるでしょう。
 そんな時、シューフィッターや足病医は相談者の靴に1cm~1.5cmのトーボックスを確認すると適正なトーボックススペースを確保できていると理解します。決してサイズが小さいとの結論を導けません。
 それ故、より足幅(ワイズ)の広い靴を履くことを進めるに違いありません。

 残念ながら、かつて、これ以上の余白が必要だと主張する足病医やシューフィッターに出会ったことはありません。



(図10-5-2)

28.5cmのadidasバスケットボールシューズインソール上の全長27.0cmの骨格模型。

 インソールの踵部から拇趾球部までの長さと骨格模型の踵から拇趾球までの長さが合っていない為、図10-2同様、模型の足指はインソールより横方向にはみ出しています。

 図10-5-1より足指の靴の前足部からの圧迫はやや改善された状況になりますが、それでも外反母趾(バニオン)、内反小趾(バニオネッタ)、外反扁平足、陥入爪、槌状趾(ハンマー・トー)、浮き指、足趾外側面のタコやマメ、爪の根元の爪母細胞組織からの内出血、等々の足の障害を解消するまでには至りません。

 


 古来、ヨーロッパの靴職人達は履き良い靴作りの数々の秘訣を弟子達の伝承してきました。
 特許などない時代に、他の同業者との競争に勝ち残るために口から口へ語り継いだこれらの秘訣の中に親指の法則(rule of thumb width)と呼ばれていた秘訣がありました。
 『靴を作るとき爪先に親指の横幅分だけ爪先を空ける』といった具合にあまり具体的な注釈は加えませんでした。
 靴作りの過程で親方から弟子たちに『親指の横幅分開けるのは成人で最も小さなとされた足(UK1/22.0cm)の人の為の靴で最低1インチ(2.54cm)のトーボックスが必要だ』と伝承していたことです。

 図10-5-3は29.5cmのadidasバスケットボールシューズインソール上の全長27.0cmの骨格模型です。 爪先部分の余白(トーボックス)を1インチ(2.54cm)に最も近い2.5cmに広げた状態を表しています。

 ようやく親指はインソール上に収まりました。
 しかし、小指はまだインソール上に収まりきれません。

 本来、(UK1/22.0cm)の足の人の為の靴で最低1インチ(2.54cm)のトーボックスが必要なわけですがら、27.0cmの足の人の為の靴では最低でも3.1cmのトーボックスが必要になります。
 したがって、この骨格模型にたししてこのサイズのスポーツシューズでもまだまだサイズが小さいことを暗示しています。


(図10-5-3)

 全長27.0cmの足の骨格模型を載せた全長29.5㎝のadidasバスケットシューズインソール。

 靴の踵部から屈曲部までを足の踵から拇趾球までの距離とを合わせた上、踵部のヒールカップと土踏まず部から甲にかけてのインステップ部で足を靴に確実に固定すできれば、爪先部に十分なトーボックスを確保する事が出来ます。
 トーボックスは爪先が靴の甲革に直接接触しないことで、
 (1) 指先の温度を一定に保つ、
 屈曲時にトーボックスが変形することにより容積が変化を利用して
 (2) 爪先部の高温多湿の空気を履き口部まで掃出し、新鮮で乾いた空気を爪先部に流入させる(フイゴ効果)、
 (3) 爪先が屈曲により前方に移動しても靴の先端部にあたらないだけの空間を確保する、
以上、3点の目的のために意図的に設けられた大切な空間です。


(図10-5-4)

 全長27.0cmの足の骨格模型を載せたサイズ27.0cmのロックポート紳士革靴のインソール

 インソールの実測長は29.5cmでした。

 アディダスバスケットボールシューズの29.5cmのインソールと同じ長さでした。

 水色の帯の部分は靴の屈曲部(ボールフレックスライン)を表しています。 屈曲部はご覧のように骨格模型の屈曲部より踵部よりにあります。 この図から靴のサイズがいまだにやや小さいことが判ります。

 図10-6はロックポート紳士革靴(28.0cm)のインソールです。  
 図10-5-1~図10-5-4同様に全長27.0cmの足の骨格模型を載せてあります。
 図10-5-4とあまり変わった印象はないでしょう。

 しかしながらインソール上の屈曲部と骨格模型の屈曲部ばほぼ同じ位置にあることから、骨格模型のに対してこのサイズが適正サイズとなります。


(図10-6)

 全長27.0cmの足の骨格模型を載せたサイズ28.0cmのロックポート紳士革靴のインソール

 インソールの実測長は30.5cmでした。


G. 足病医がミスリード


 随分回りくどい説明になりましたが、『一定のトーボックスの長さがあれば適正サイズの靴てある』と言う考え方は通用しないのです。
 正確なフィッティングはシューズのヒールカップから屈曲部までの長さを履く人の踵から拇趾球までの長さと合わせることでサイズを特定します。この時、シューズの先端と爪先との間にできた空間がトーボックスと呼ばれます。
 続いてシューズの屈曲部の横幅と履く人の足幅が合っているかどうかを確認することで成し得るものなのです。
 トーボックスは履く人の拇趾球から爪先までの長さに依存します。足指の相対的に長い人のトーボックスは短く、足指の短い人はトーボックスが長く残ります。
 また、トーボックスはシューズのサイズに比例して変化します。大きなサイズの靴ではトーボックスは長く、小さなサイズの靴ではトーボックスは短くなります。
 このあたりの事をシューフィッターや足病医は理解していません。
 22.0cmの靴でも30cmの靴でもトーボックスは一定だと考えているようです。  
 日本の靴医学会に大きな影響を与えたアメリカ人足病医(D.P.M)、ウイリアム・A・ロッシもその例外ではありませんでした。
 ロッシは靴と足に関するいくつかの高名な論文を発表しましたが、彼自身、正確なフィッティング理論を持っていたわけではありません。
 彼の論文『Why Shoes Make Normal Gait Impossible?(なぜ靴は正常な足取りを不可能にするのか?)』で用いた写真とイラストをみれば、彼がシューズの構造を正しく理解していないことが判ります。

 彼は歩くための靴(快適に動き回る目的に特化した靴)とファッション靴(人に見てもらうことを目的に特化した靴)そしてローファ(もっぱら室内で座ったまま仕事をすることに特化した靴)を同一視ししていたように思います。

 まずはその特性の違う3タイプの靴をご覧ください。

 快適な履き心地になるように設計された靴は、ヒールカップ(踵部の芯)で踵を支えると同時に、土踏まずから甲までを靴ひもなどで包み込むように支えることで、足趾が解放され自由に動かせるように設計されています。(図10-7)



図10-7. 紐付紳士革靴


 頑丈なヒールカウンターと土踏まずから甲までを靴ひもで締めることで靴の屈曲部より後部をしっかりと支え、爪先部が自由になるよう設計されています。
 靴ひもやストラップで足を踵部と土踏まず部で確実に支持することのできる上の写真のような靴と下の写真のようなパンプスやスリップオン、ローファに代表されるスリッパに近い構造を持つ靴達とを同一視してはいけません。


図10-8 婦人パンプス


 パンプスは足が美しく見えるようにすることだけを目的としてデザインされています。
 履き心地を向上されることを目的としてデザインされた靴ではありません。

 脚を長く見せる目的で甲革を大きくカットしたデザインの為、靴の爪先部で足指を圧迫する以外には靴を足に留めることは不可能です。


図10-9 コインローファ


 スリップオン、ローファは貴族が執務室で履いていた室内履きです。

 歩くことよりも、長い時間座って執務する時の快適さに重きを置いてデザインされています。




 土踏まずから足の甲にかけて十分に足を支える構造となっていないため、主に踵部と爪先部で足を靴に留めることになります。
 パンプスやローファは常用すると必ず足の機能を低下さ、重大な外反母趾・内反小趾・外反扁平・巻き爪など足の障害の原因となります。
 ロッシが紐付紳士靴とスリップオンやローファやパンプスとの構造的な違いを全く理解していないことは以下の図により明らかです。



 『Why Shoes Make Normal Gait Impossible?』Fig.20,Fig.21

 ロッシは先の論文中で靴ひものある革靴を曲げた写真(Fig.21)を提示し、偽りの屈曲部だと断じています。

 彼は靴の屈曲部はもっと爪先側にあるべきだと主張しています。

 次にスリップオンタイプの革靴内部に足の骨格の一部を描いた上下二段のイラスト(Fig.22)を提示し、上段の靴の屈曲部は拇趾球と位置とずれている悪い靴であり、下段の靴は屈曲部が拇趾球位置にある良い靴だと説明しています。

 彼の最大の過ちは、まったく性格の異なる2タイプの靴を同質のものと認識していることです。

 スリップオンタイプの革靴はローファと基本構造は何ら変わりません。

 スリップオンとは足をすぺり込ませて履く、ローファとは怠け者を意味しています。

 いずれも楽に脱ぎ履きできること示唆した名称です。

 脱ぎ履きが楽な反面、靴内部で踵をヒールカップに、拇趾球を靴の屈曲部に留めておくことが難しく足元をしっかりと支える構造にはなっていません。

 踵から靴の屈曲部までを合わせて履いたとしても、支えるべきところを十分に支えきれないため、履き込んて甲革(アッパー)が伸びればすぐに脱げ易くなります。

 脱げないようなサイズを選んで履くと、十分なトーボックスを確保する事が出来ないばかりか、拇趾球が屈曲部よりも爪先側に移動してしまいます。

 上段のイラスト(Fig.22:Top),は正にこの状態を表しています。

 足幅が細い人がワイズ(側幅)の広い靴を履いた状態です。

 靴の設計が悪いわけではありません。

 ところがロッシは下段のイラスト(Fig.22:Bottom,)の様に屈曲部が前方にデザインされた靴が良い靴だと主張しています。

 一連の説明を通じてロッシが適正な靴の選び方と正しい靴の履き方を全く理解していないことは明白です。

 ロッシは別の論文『子供たちの履物:成人の足の病気の発射基地(Children's Footwear: Launching Site for Adult Foot Ills)』において『靴は子供の足に履かれるとき、つま先に0.5インチか、それ以上の「成長余裕」が設けられていなけばなならない。もしくは、親指の横幅(約1インチ)を成長余裕とする親指の法則が用いられれなければならない。』と言う古くからの規則を根拠のない神話だと決めつけ、下記のFig.1で図解しています。



『Children's Footwear: Launching Site for Adult Foot Ills』Fig.1

 左側が靴の屈曲部と拇趾球が合っている状態、中央が屈曲部と拇趾球が合っていない状態、右側が中央の状態を足底から見たものとしています。
 問題は右の図です。靴と足とは踵部から拇趾球部までの形状が合致しています。靴の形状からロッシの示した靴の屈曲部は靴の爪先部に寄り過ぎています。
 むしろ、足の屈曲部の位置に靴の屈曲部もあるべきです。
 彼の説に従い図に示された靴の屈曲部まで拇趾球部を移動させた場合、足指は爪先側面からの圧迫を受け、子供の足指の健全な成長を阻害してしまいます。

 人の足は17歳くらいまで成長を続けます。その間はこまめに靴のサイズを成長に合わせて替えて続けなくてはいけません。  

 日米の整形外科医、足病医はロッシの論文の影響を強く受けています。
 従って彼らも正しいシューフィッティングをすることはできません。

 日米のシューフィッターもロッシの論文の影響を強く受けています。
 同様の理由から日米のシューフィッターも正しいシューフィッティングはできません。

 加えて、日本の整形外科医、足病医、シューフィッターは日本人の足の特徴を全く理解していません。
 次項で詳しく述べますが、日本人の足は決して幅広、甲高ではありません。
 ただ、踵から拇趾球までのアーチの長さが同じであっても、平均的な日本人の拇趾球から爪先までの長さが平均的な欧米人のそれに比べて短いだけなのです。

 日本人の足と欧米人の足の相違と適正なトーボックスの長さを理解することなしに、正確なフィッティングなど考えられません。

 ほとんどの日本人足病医とシューフィッター達は、どんな靴が本当に良い靴なのかを理解していません。
 加えて、日欧の足の相違の本質を理解出来ていません。
 そんな彼らが足と靴の専門家として一般の人々に認知されています。

 そのため、彼らの間違った認識が人々の常識として定着し、靴選び、靴の履き方をあらぬ方向に導いています。



H. 踵から拇趾球までの距離の重要性とトーボックス


(図10-10) ラスト

 上の写真でラスト底面に引いた赤線に接している部分が拇趾球部になります。  拇趾球部からJまでの黄線が日本人の標準的な足指の長さを表します。  拇趾球部からEまでの白線がイギリス人の標準的な足指の長さを表します。

 下の写真は日本人の足指が収まる範囲を黄線で、白線までがイギリス人の足指が収まる範囲を表しています。  赤の斜線は拇趾球から小趾球までを結ぶボールフレックスラインを表しています。


(図10-10) ラスト

 上の写真でラスト底面に引いた赤線に接している部分が拇趾球部になります。  拇趾球部からJまでの黄線が日本人の標準的な足指の長さを表します。  拇趾球部からEまでの白線がイギリス人の標準的な足指の長さを表します。

 下の写真は日本人の足指が収まる範囲を黄線で、白線までがイギリス人の足指が収まる範囲を表しています。  赤の斜線は拇趾球から小趾球までを結ぶボールフレックスラインを表しています。


(図10-11) 29.5㎝ソックライナー上の27.0㎝骨格

 右の図の赤線(A)がインソールの全長です。
 スポーツシューズはインソールの全長をサイズ

として表示しています。

 白線(B)がこの靴に最適な欧米人の標準的な
足の全長を表しています。
 革靴はこの靴に最適なイギリス人の標準的な
足の全長をサイズとして表示しています。

 緑線(C)がこの靴に最適な日本人の標準的な足
の全長を表しています。

 日本人はイギリス人に比べ拇趾球から爪先ま
での足趾部が短いので、つま先にイギリス人より
長いトーボックスが残ります。
 黒線(D)で示した『踵から拇趾球中心までの長さ
』(アーチレングス/arch length)と『靴のヒールカ
ップから屈曲部まで』の長さを合致させることで最適
な靴を正確に見つけ出す事が出来ます。


 先の説明したように、ラストに設けられるトーボックスの長さは最低でも22.0cmの革靴で2.54cmあります。
 22.0cmの革靴の全長(ラストサイズ)=22.0cm+2.54cm=24.54cm
 スポーツシューズはシューズの全長を表示サイズとしていますので、
 革靴で22.0cmを最適なサイズとしている人がスポーツシューズでの選ぶべきサイズは近似値の24.5cmとなります。

 革靴のサイズも1.115を掛けるとスポーツシューズのサイズに換算する事が出来ます。

 スポーツシューズのサイズを1.115で割ると革靴のサイズに換算する事が出来ます。


(図10-11) アーチレングスとワイズ

 シューフィッティングにとって最も重要なのはアーチレングス(arch length)とワイズ(width)です。
 最初にシューズのヒールカップに踵を密着させ、拇趾球が靴の屈曲部と合っているか確認します。
 次に、拇趾球から小趾球までの横幅がシューズの横幅と合っているか確認します。
 この2点が確認できればサイズはあっています。
 靴のつま先に大きな空間が空いていても構いません。
 日本人の足は決して幅広甲高ではありません。
 最低でも2.54cm爪先を開けて履かなければいけない靴を1cm前後の隙間しか開けずに履くため、常に爪先が圧迫され自分の足が幅広だと勘違いしているだけなのです。
 ワイドやスーパーワイドの靴など必要ないのです。
 日本人の足の民族的特徴はイギリス人の標準的な足に比べ、踵から拇趾球までの長さに対する拇趾球から爪先部までの長さが短いことにあります。


 日本人にもイギリス人に近い足の特徴を持つ人も多いため、現在一般に使われるラストの基本的な形状は今でもイギリスのラストの形状を踏襲しています。

 靴と足とをフィットさせるとき、最も大切なポイントはアーチの長さと足の幅です。

 従って、多くの日本人にとってイギリス型のラストを使用して作られる靴を履けば、足趾が短い分だけイギリス人に比べ多くのトーボックススペースが生まれます。

 それでも、これで正しくフィットさせたことになります。

 日本人でも足趾の長い人ならばイギリス人と同程度のトーボックススペースが残り、足趾を甲革内で自由に動かせるゆとりが生まれます。

 ところが、ほとんどの日本人は適正な靴を選ぶのに最も重要なデータは足長と足囲だと信じています。

 加えて、シューフィッターや足病医が『靴の爪先には最低でも1cmのトーボックスを開けなければいけない。』と言う言葉か独り歩きしていることも問題を深刻化させています。

 成人の靴には最低でも1インチ(2.54cm)以上のトーボックスが必要不可欠であり、ラストには1インチ以上の長さがトーボックススペースとして組み込まれているにもかかわらず、『最低でも1cmのトーボックス』と言う言葉が、より大きなトーボックスを確保する事の最大の妨げとなっています。

   メートル法がフランスで制定される以前のイギリスでは1cmと言う単位その物が存在していないのですから。

 シューフィッターや足病医のミスリードが間違った選択を消費者に与えます。

 つま先に1cm以上の大きな空間ができると、消費者はサイズか合っていないと勘違いして、適正サイズより小さな靴を選びます。

 本来は入ってはいけないトーボックスの先端近くまで足趾を入れることになり、爪先部が甲革の圧迫を受ける原因となります。

 誰もが靴が小さいとは理解できず、自身の足幅か他の人々よりも広いのだと勘違いします。

 JIS規格も正し靴選びの障害となります。

 靴に関するJIS規格は足長と足囲をサイズとワイズとして既定しています。

   ほとんど総てのメーカーが使用しているラストはイギリスのラストの準じた形状をしています。JIS規格での足長をぞのまま鵜呑みにすると自身の足より小さな靴を選んでしまう可能性が高くなります。

 また、足囲を表示しても何の意味もありません。

 足囲(ball girth)は元々足幅(width)とは別物です。

 足囲(ball girth)はあくまでも拇趾球から小趾球までの外周であって、拇趾球から小趾球までの足幅(width)を意味していません。

 靴の良否はラストの良否で決まります。

 良質な靴作りに必要な情報として、踵から拇趾球までの長さ(arch length)、踵から小趾球までの長さ、拇趾球から小趾球までの長さ(width)、ヒールカップの形状、拇趾球から小趾球までの外周(ball girth)、土踏まず部の外周(instep girth)、くるぶし下足首部の外周(ankle girth)のなどの数値があります。

   これらの数値を元にラストの形状が決定され、その形状に合わせて靴が作られます。

 既製品の靴の中から自身の足に最適な靴を探し出すのに最も重要な情報は、踵から拇趾球までの長さ(arch length)です。

 しかし、靴にはこの長さは表示されていません。

 靴に表示されているサイズを目安に大体のサイズを絞り込みます。

 革靴ならば自身の足の全長に近い数値の物を選び、試し履きします。

 スポーツシューズならば自身の足の全長に一定の係数(1.115)を掛けた数字に近いサイズに絞り込みます。

 足の全長が25.0cmの方の場合、近似値は28.0cmとなります。

 靴のヒールカップに自身の踵を密着させ拇趾球がシューズの屈曲点付近にあるかどうかを確認します。

 屈曲点付近よりも爪先側に拇趾球がある場合にはその分だけサイズを大きくします。

   屈曲点付近よりも踵側に拇趾球がある場合にはその分だけサイズを小さくします。

 正し形状のラストをもとに作られた靴であれば、ヒールカップに踵が密着します。

 最後に拇趾球から小趾球までの長さ(width)/足幅が適正かを調べます。

 靴ひもを絞めた時、十分に絞め込め、なおかつ、ハトメ同士が近づき過ぎない程度の靴で拇趾球部と小趾球のやや踵よりから踵までを十分に支えられているかを確認します。

 最後に、そのままの状態から足裏全体に体重をかけ、踵を徐々に持ち上げて前足部だけに荷重を残します。

 踵部ではヒールカップに踵が密着した状態で追随し、前足部では足趾が十分に開いて爪先部が甲革からの圧迫を受けなければ及第点です。

 ヒールカップから踵が離れてしまう場合には不合格です。

 前足部で足趾が十分に開かなかったり、つま先が甲革にあたってしまう場合はサイズを少し上げて試してみます。

 それでも同じ症状でしたらその靴は不合格です。

 残念ながら、足趾が十分に開くように設計されたラストはほぼ皆無です。

 従って、現状では出来るだけ足趾が開きやすい靴を選ぶ以外にありません。





 C.メーカーの計測を信用してはいけない。


 ホームページを作り始めた1998年当時から16年経過いたしました。
 2000年7月7日にインターネット上にリリースしてからでも13年が経過しようとしています。  
 ホームページ上で一貫してシューフィッティングの基本は踵から拇趾球までの距離を靴の踵部から靴の屈曲部までの距離を合わせる事が第一であると主張してきました。
 ところが、現在(2014年11月時点)でも日本ではメーカーの人間までがこの最も大切な基本を理解していません。
 それどころか足のサイズの計測機を大型量販スポーツ店に持ち込み、来店したお客様の足を測った上で、全く間違ったサイズ評価を下した挙句、全く見当違いのサイズとワイズのシューズを最適なサイズとして勧めています。
 神奈川県のIさんから『買い替えを検討している中、泉様のサイズ選びのページを拝見し、かなりの衝撃を受けました。』と私の店の通販サイトにメールが届きました。
 現在26.5cmのゲルバースト2を購入し、使用中とのことでした。
 Iさんはアシックスの測定器でフットプリント(図10-12)を測定してもらって、それもシューズ選びの参考にしていたようです。


図10-12

アシックス測定器 によるIさんの足 のデータ

 計測器により計測されたIさんの足のデータは以下であったとのことでした。

  ・足長:260
  ・足囲:243
  ・かかと幅:62
  ・足高:62

 Iさんは革靴も専門店でも足の測定してもらっていて、26.0cmの革靴を愛用しているそうです。
 これらを基にIさんに最適なバスケットボールシューズをアドバイス願いたいとのことでした。
 足長と足囲で最適なバスケットボールシューズを特定することはほとんど不可能です。その為、かなり曖昧な絞り込みしかできません。
 正確なサイズの特定に有効なデータは足長と足囲ではありません。
 正確なサイズの特定には踵から拇趾球までの長さ(Arch Length/Heel to Ball)と足幅(width)が最も重要です。
 加えて、かかと幅と足高はほとんどバスケットボールシューズのシューフィッテイングで意味を持ちません。
 アシックスに限らず、ほとんどのスポーツシューズメーカーの営業部は大きな勘違いをしています。

 各社の展示会に出掛けてサンプルのサイズが27.0cmであることに違和感を感じています。
 革靴の展示会の商品サンプルもほとんどのメーカーで27.0cm前後のサイズです。多くの人が試着をして、製品の良し悪しを見極め、受注して帰ります。
 各社の展示会に出掛けてサンプルのサイズが27.0cmであることに違和感を感じています。
 スポーツシューズの27.0cmは革靴に換算して24.0cmよりやや大きいくらいのサイズの相当するからです。(アシックスの27.0cmは実質28.0cmですので革靴に換算すると約25.0cmにとなります。)

 招待された小売店の店員の中には試着をしている人もいます。 彼らはこの試着を通じて何を知りたいのでしょうか?
 履き心地でしょうか? フィット感でしょうが?

 私の店ではスポーツシューズと革靴のサイズに対する認識が異なることを認識しているため、在庫するサイズレンジが他のお店と相当に異なります。
 楽天に出店していますのでご覧いただければ一目瞭然です。
 男性用スポーツシューズは27.5cm~32.0cmを、女性用スポーツシューズは24.5cm~27.0cmを在庫するようにしています。

 Iさんの足に話を戻します。

 メールの内容から推測できるⅠさんの適正サイズは、革靴の専門店で計測してもらい購入した26.0cmにスポーツシューズへの換算係数1.115をかけて割り出された28.99cm≒29.0cmがたたき台となります。
 前述した通り、アシックスのでは29.0cmのラストで作られたバスケットボールシューズには1cm小さい28.0cmと表示されますので、これサイズを手始めにフィッティングを行います。

 アシックスの計測機によるIさんのワイズ(足幅)はEとなっています。
 しかしながら、そのフットプリント(足跡)を見る限り、IさんのワイズはDより細いように見受けられます。
 現在使用中の26.5cmのゲルバースト2は、ナイキ、アディダスなどの革靴など27.5cmに相当します。
 これを革靴のサイズに換算すると≒24.67cmと、かなり小さなサイズとなります。
 フィッティングのスタートサイズは28.0cmあたりでしょう。
 ただし、ゲルバースト2のワイズはEEですから28.0cmを試着すると横幅が広すぎてフィットしない可能性は残ります。
 サイズがほぼ合っているのにワイズがあまりにも広い為、Iさんはこのサイズする発想はなかったと思います。
 アシックスの測定器では26.0cmと適正値が出ました。
 足長に近い表示サイズ26.5cm、ラストサイズ27.5cmのゲルバースト2を選んだに違いありません。
 しかしながら、このサイズではトーボックスがまだまだ不十分です。
 必ず足趾の障害がおこります。
 加えて、ゲルバースト2の屈曲部とIさんの足の屈曲部が全く合致しません。

 図10-13はIさんの本当のフィッテングサイズ(あくまでもサイズだけ)と思われる28.5cmのゲルバースト2用インソールです。
 メジャーを使って長さを測るとインソールの全長は29.5cmでした。(赤の矢印)
 また、ゲルバースト2の屈曲ポイントは青の矢印の位置でした。
 インソールが立体的に成型されていて、人差し指を使って撫でてみていただけば、この部分がくぼんだように感ずるはずです。
 実際にはくぼんでいるわけではないのですが、この部分の少し爪先側から徐々に上方に反りかえるように加工されている為、そのように感じるのです。


図10-13 アシックス
ゲルパースト2
のインソール
(28.5cm)

 私がフィッテングするとするならば、Iさんにはアシックスを勧めません。
 アシックスは最も細身のバスケットボールシューズでもワイズはEです。Iさんの足のワイズは少なくともD、それよりも細身のC以下の可能性もあります。
 アディダス、ナイキ、リーボックなど海外メーカーのインターナショナルモデルは殆どの場合Dワイズを採用していますので、Iさんにはむしろこれらがお勧めです。


J. 適正サイズを選び出すだけではシューフィッティングの意味はない。


 図10-14
adidas adipure trainer


 足指を開いてランニングやトレーニングする事で足指の腹部に力が入ります。
 デザインの奇抜さから、多くの人々に履いてもらえるスタイルのシューズではありませんが、その多大な効果は、勇気あるユーザーだけが経験できるものです。

 同等か、それ以上の効果を期待できるのはキネシオテープによる足指のテーピングです。

 キネシオテーピングにより、スポーツシューズ内で足指は5本指シューズ同様の力を発揮することが可能となります。
 キネシオテーピングに付いては8.外反母趾対策テーピング法を再読ください。

 シューズがどれほど進化しても、中に入る足そのものに問題があれば性能を発揮できません。
 適正サイズのシューズを健常な足で履いて、はじめてシューフィッティングは完璧なものとなります。


 アシックスの分析シートに描かれている足のイラスト同様、ほとんどの人々の足には軽度の外反母趾、内反小趾になっています。
 五本の足指が各指付け根の中足骨の骨幹部中心の延長線上にに真っ直ぐに伸びている正常な足でなければ、最大の効果を発揮することはできません。

 昨今は足指をまっすぐに伸ばせるよう工夫されたランニングシューズやトレーニングシューズも市場に現れ始めました。